「TAB譜通りにしか弾けない。」

「自分の音が機械的に聞こえる、アドリブが決まった形しか弾けない。」

 

これらはギタリストなら一度は感じる壁ではないでしょうか。

「どんなアンプで、どんなギターを渡されても、僕の音が鳴る」

そう語るトモ藤田さんに、その壁を突破する鍵を語っていただきました。

 

 

TAB譜からの脱出

ーー ギターの教則本って、テクニックの部分だったりTipsの要素が多かったりすると思うんですが、トモ藤田さんの本には音楽の本質的な部分が書かれている気がしました。ギターって音楽を奏でるものなんだ、という一見当たり前のことを再確認できる本ですよね。

トモ藤田:バークリーで教えた経験のなかで伝わりにくい部分をCDで伝えようと思って、この本を書きました。でも、スケール※1の弾き方とか、ブルースのフレーズとか、そんなのはあんまり書いてないんです。耳と感性でギターを弾くために大事なことは、そういうことじゃないんです。

※1 tips:スケール
ある基準の音から決まった規則に習って並べられた音のグループのこと。楽曲のメロディやコードの土台となる。

 

ーー そういうことじゃない。ギターを始めるとき、スケールやフレーズを覚える所からスタートする人は多いと思います。しかしそれは本質ではない、ということでしょうか?

トモ藤田:その通りです。ギターの練習というとTAB譜を見る人も多いですよね?TAB譜で弾いていたり、スケールやフレーズを覚えたりというのは、弾けても意味がわかっていない状態なんです。何の音を弾いているか、何のコードを弾いているか、自分でわからないまま弾いている。形だけ覚えてしまって、視覚的に捉えて弾いてしまう。そうじゃなくて、耳で弾きたいんです。

ーー 僕も痛感してます(笑)。新しいフレーズを考えたい時に、ただ指を動かしているだけの演奏になってしまう。

トモ藤田:そういう時は自由度を「制限」すると良いですよ。例えば、僕はバークリーでアドリブ教える時に「12フレット以上は触らないように」と教えています。なぜかというと、高い音は派手だから。使ってしまうと満足感が得られてしまう。弾けたような錯覚に陥ってしまうんです。それで満足してしまったら、もう終わりです。終わりというのは、ここから2年やっても同じということです。

じゃあどうすればいいかというと、例えば「1本の弦だけ」を使う。12フレットより低い場所で何の音が鳴っているかをじっくり把握していくんです。

ーー 「形」で覚えるんじゃなくて、1本の弦の上を移動しながら「ドレミの音の響き」を耳でキャッチしていく、という感覚でしょうか。

そういうことです!まさにそれが「耳で弾く」ということ。形として覚えたらいいわけではないんです。スケールも同じ。このスケールを鳴らしておけばいい、というのは良くない。だから、ギターっていうのは早く学べば学ぶほど停滞してしまうんです。

感性の部分は、やっぱり譜面に縛られないということかな。僕が『3音でギターを制覇するトライアド・アプローチ』を書いたときも、この譜面、演奏してから書いてるんですよ。譜面を書いてからだと固くなっちゃうから。全部録音してから譜面にしています。

 

 

ギター1本で鳥肌を

ーー トモ藤田さんのギターは、ギター1本なのに、音楽として聞こえますね。バッキングが聞こえてくるようだし、グルーヴも感じられる気がします。

トモ藤田:そう。それが、音楽の魅力なんです。聴いただけで鳥肌が立たないとだめ。おかしな話、自分の演奏に鳥肌が立たなかったら、おもしろくない

ーー 確かに。そのためにはどんな練習をするべきでしょうか。

トモ藤田:そのためには、簡単で楽なことを全部やめて、面倒な基本を先にやる必要があります。第一歩目は、土台作り。タバコとかお酒やめるみたいなもので結構辛いんですけどね(笑)。

さっきの話と通じますが、まずはTAB譜を見ないように。YouTubeで弾いている動画を見てるなら、見ちゃいけません。僕はYouTubeを見て学ぶとき、見ないで音だけ録音するんです。見てしまうと運指がわかってしまうから面白くない。

ーーまさに練習であっても「耳で弾く」ということですね。では、面倒な基本は。

トモ藤田:面倒な基本というのは、やっぱり指が動かないことには演奏できないので基礎的な練習ですね。ごく普通の運指練習です。本にも結構詳しく書いてるんですよ。でも簡単な基礎練だと思って、読み飛ばしてしまう。意識することを変えるだけで意味が全然変わってきますから、丁寧にすることが大事です。

ーー 意識することを変える、というのは具体的にどのように意識を変えるのでしょうか?

トモ藤田:多くの人はテンポを優先して弾かなければいけないと思いがちです。そうじゃなくて、ゆっくり、丁寧に音を伸ばして繋ぐように意識する。それから、全部ダウンピッキングでやらないといけない。みんなオルタネイトピッキングでやりますよね。そうしたら難しくなってしまうので良くないです。

それができたら、次はソフトに弾きます。(ピッキングの力を弱くし、エアコンの音が聞こえるくらい小さい音量で演奏を始める。)

 

ーー すごい。聞こえるか聞こえないか、ぐらいの音ですね。

トモ藤田:僕がソフトに弾くと大体エアコンの音が聞こえますね(笑)。エアコンの音より小さい音。これを、アンプから出すんです

ーー 普通に弾いてる時にエアコンの音なんて全く意識しませんでした。

トモ藤田:そうでしょう。そしたら次は音階を下がっていく「下降」ですね。下降は上昇するときよりも、もっとゆっくり弾かないといけない。下降するとき、上昇と同じテンポでやるとノイズが出るんです。上昇はゆっくり弾く、下降はもっとゆっくり弾く。

こういう基礎練習をすると、ダイナミクスの幅が広がってニュアンスの表現が豊かになります。TAB譜見て弾く人はこういう練習を飛ばしてしまって、力が入った状態で演奏のようなことをしてしまうから、演奏にならないんです。

ーー なるほど。確かに譜面をなぞって同じ強さで指を動かしているだけの状態を演奏してるとは言い難いですね。では、その基礎練習は結構長時間やったほうがいいんですか?

トモ藤田:いや、5分でも10分でもいいです。何時間もやるより、こつこつ続けることで習慣にするのがいいですね。

ーー やっぱり億劫になってしまっては続かないですもんね。その練習で、他に気をつけることはありますか。

トモ藤田ヘッドホンとかギターの生音でこの練習はやらない方がいいですね。なぜかというと、聞こえないからつい強く弾いてしまう。アンプに繋いで同じ強さで弾いたらだいぶうるさく感じます。とにかくソフトに弾くことが大事なんです。

面白いのは、僕はピックをセルロイドのものを使ってるんですよ。セルロイドって、強く弾いたら欠けるんです。一回強く弾いてみますよ。ほら。(強くコードストロークした後、大幅に削れたピックを見せる。)

ーー ええ、一瞬でこんな削れるんですか。

トモ藤田:セルロイドは燃える素材なので、すぐ削れてしまう。いい音出ないなっていう時のライブのあとにピックを見ると、結構削れてたりするんですね。やっぱり焦ってたりすると、力が入り過ぎてしまうんです。固いピックでやってると気づけないですね。今日も良かったなあ、で終わってしまう。僕はライブの後にピック見て反省するんです。ちょっと強過ぎたかなあ、って。二日酔いでちょっと飲み過ぎたかなあ、ってなるみたいに(笑)。

ーー なるほど(笑)。でも生で音を聞いていると、このダイナミクスの繊細さはYouTubeとかアンプシュミレーターでは再生しきれないんじゃないかと思ってしまいますね。

トモ藤田:それはテクノロジーの難しいところですね。確かに綺麗に録れてるんですけど、ニュアンスが出ない

ーー ずっとコンプがかかってるみたいな。

トモ藤田:そうそう。その通り。だから逆にいうと、ちょっと強く弾いても悪い演奏に聴こえない。その上でEQ触ったり丸くしたりエフェクトかけたりすると、いい音がしてしまう。でも生で人に聴かせて鳥肌を立たせるには、このダイナミクスの練習がすごく生きてきます。特にソロギターとかならわかりやすく。

その場の空気を変えるようなギターを弾くには、そもそもの土台作りが大切。指に力を入れないで、指のノイズが出ないように。これはやっぱりアンプを使わないと分からないものです。

ーー やっぱり家での基礎練習もなるべくアンプでやったほうがいいんですね。

トモ藤田:そうですね。例えば僕が学生の時に、Champ 12というアンプを初めて買ったんですよ。そのアンプには、ボリュームと、トレブルと、ベースしかないんです。やっぱりダイナミクスを練習したくて、そのアンプでちょっと変わった練習をしていました。

ーー どんな練習なんですか。

トモ藤田:ボリューム大きめで、ベース0で、トレブル10でやっていたんです。

ーー うわあ、弾くの怖いですね(笑)。

トモ藤田:それも、そのセッティングで夜に練習するんです。大きな音を出したらもちろん迷惑ですから、それはもう練習になりましたね。でもそのおかげで、ある程度ボリュームを上げてもソフトに弾けば生音で普通に弾いた時と同じくらいの音を出せます。

ーー 近所迷惑になるからアンプは家で使えないよ、という人もできる練習方法でいいですね。

トモ藤田:そう。僕はこういうことを昔から鍛えたので、何が強いのかというと、どんなアンプでどんなギターを渡されても、僕の音が出る。

 

 

環境が形作った自分だけの武器

ーー そのルーツというか、その考えというのはどこから来てるものなんですか。

トモ藤田:僕がアメリカの東海岸に住んでいた、というところが大きいと思います。ニューヨークってタクシーでクラブとクラブを移動するんで、あんまり大きい機材を持っていけないんですよ。場所によってはもうアンプが置いてあって、エフェクターとギターだけ背負って行くんです。そうすると、ショルダーバッグで行けるので。その少ない機材だけで自分を表現するために考えた結果だったんじゃないかと思います。

ーー 環境が関係していたんですね。

トモ藤田:そう。日本にいた頃はもっと色々使っていて大きなボードだったんですけど、どんどん小さくなっていきましたね。

ーー 機材がなくても自分のサウンドが表現できるようになったから、ということですね。

トモ藤田:そうです。あとは間接的ですが、コーネル・デュプリーの影響が大きいと思います。『Teasin'』というアルバムがあるんですが、聞けば聴くほどすごいなと思うのは、エフェクターをあんまり使ってないんです。ほぼ直アン。でもすごい歌ってるんですよ。そんな物凄いテクニックを使ってるわけじゃないのに、すごく歌い方がわかってて。

僕は91年くらいに初めてアルバムを作ったんですけど、その時は結構サウンドがラリー・カールトンなんですよ。割と歪んでてて。これではダメだと思って、それからはあまりジャズを聴かなくなりましたね。それから95年くらいまでは結構ブルースばっかりやって。そのあたりから自分のサウンドが出来てきたかな。

 

 

メトロノームとセッション!?

ーー 次はリズムについてお聞きしたいのですが、よくメトロノームに合わせましょう、と言われていますよね。でもそれだとクリック音に合わせることに必死になって、機械的になってしまうことがあります。

トモ藤田:メトロノームに合わせましょうというのは、言ってることは確かに正しい。ただ、説明が不足しているんです。まずはひとりで弾けてから、メトロノームでテンポをキープしましょう、ということです。特に大事なのは、弾いてる時に「体が」グルーヴしているかどうか。僕がよくバークリーの生徒とやるのは、動画で何か1分弾くという宿題を出して、最初に音なしで見るんです。

ーー 音なしで!?体の動きを見たいということですか?

トモ藤田:そう。見てると、どうしてもグルーヴが分からない子が多いんです。これは問題で、なぜかというとオーディエンスがわからないから。パフォーマーは体を動かして見てる人が合わせやすいようにしないといけないんです。

ーー ひとりで弾くにしても、メトロノームの前にグルーヴを大事にということですね。その第一歩目としての練習法はありますか。

トモ藤田:何より大事なのはやっぱり自分の中でグルーヴを作れてからクリックと合わせること。するとまるでクリックがグルーヴするみたいに聞こえてくる。クリックとセッションするんです。

ーー その練習する曲って、なんでもいいんでしょうか。最近のポップスとか。

トモ藤田:なんでもいいです。でも、出来ればゆっくりでシンプルなもので練習するのがいいですね。スウィングとかシャッフルとか。16分とかだと音数が多くて忙しいから、どうしても合ってるように聞こえてしまう。それこそ、ただのパワーコードでもいいですよ。

ただ、意識したいのはメロディですね。リズムを鍛えた上で、ひとりで演奏する感覚を身につけるには頭の中でメロディをイメージできるようにするのが大事なんです。

 

 

自分の中でメロディを鳴らせ

ーー ギターを勉強する上で音楽を聴くときに、いろんな曲を聴くか一曲を聴き込むか、どちらの方がいいんでしょうか。

トモ藤田:一般的には幅広く聴く方がいいですね。ただ、ある程度的が絞れてきたら一つのアーティストの一つのアルバムとか一曲だけを聴き込むほうがいい。そもそも昔の音楽の聴き方っていうのはレコードだったから、アルバムで聴くしかなかったんです。そうすると自然と一曲に感じる意味も深くなってくる。最近は全部がデジタルだから、すぐに違う曲に飛べてしまいますよね。なるべく少なく選んだ曲をたくさん聴いた方がいいと思う。

ーー その方が自分に定着するっていう感じがありますよね。トモ藤田さんは音楽を聴くときにどんなことを考えて聴いていますか。

トモ藤田:そうですね、例えば僕はよくアメリカから日本に飛行機で帰ってくる時、日本の最近のヒット曲を聴いています。その中からメロディがいい曲だけチェックするんです。その曲を飛行機の中で20回くらいずつ聴いて、真剣にメロディを取ってみると、面白い。日本のポップスは売れるように計算されて作りこまれているから、メロディのフレーズがアドリブされていない。それを反対に僕のギターの音に使ってみるんです。ギターはアドリブされすぎていて耳に残らないから、ポップスのメロディのリズムをアドリブに活かす。そうすると、僕のソロもクリアになったりするんです。

こういうふうに、曲を聴いているときに自分の中で「鳴って」きたら弾いてみるようにしています。普段からそういう聴き方をする習慣をつけるのがいい。

 

 

ーー そういう耳でコピーをするにしても、メロディをただ弾けるようにするだけではなくてコードを理解する、というのが大事なんでしょうか??

トモ藤田:メロディを理解する時に、コードはどうなってるのかは考えていますね。メロディとコードはセットで理解するものです。その上で、メロディを度数で理解することが大事ですね。僕はよくトライアドの話を出しますが、それがなぜかというと、度数を知るためにはメジャースケールとトライアドを知らないといけないんです。度数が分かるようになると、メロディがいい曲から学んだ度数のアイデアをソロの中に入れられるようになる。それがペンタトニックのありきたりな形から離れる一番大事なポイントじゃないかと思います。確かにこのあたりの勉強は面倒で難しい作業ですが、この勉強のうえに頭の中でメロディが鳴る、という感覚を掴めるのだと思います。

ーー なるほど。その勉強をすごく分かりやすく初歩的に書いてくれているのがこの『耳と感性でギターが弾ける本』ですよね。

トモ藤田:そう。この本をちゃんと読んで理解している人は上手くなっていく。大体の人はね、読まない(笑)。読んでも1回かな。本当は3回くらい読むのが一番いいですね。それくらい読むと理解度が深まってアイデアが引っかかってくる。そうすると効果的。

きちんと整理して書いたはずなので、勉強の第一歩目としては最適だと思います。全部読むのは確かに大変だけど、何章かだけでも読んでもらえたら絶対気がつくことがあると思う。

ーー その勉強をすることで、普段自分が演奏するジャンルでも基礎力が上がってきますし、なんなら曲のアレンジとか、アドリブにも繋がるということですね。

トモ藤田:すごく繋がると思う。むしろ、基本ができていないと次の段階にいけないからね。

 

ギターをもっと自由に、次の段階へ

ーー 今まで出版された本、例えば『3音でギターを制覇するトライアド・アプローチ』ではこれらの話がより深掘りされているのでしょうか。

トモ藤田:そうだね。バークリーでは、度数で音程を知り、それとトライアドを結びつけていくということをやるんです。なかなか独学では難しい部分ですし、TAB譜では伝わらないことも多いです。その本では、土台の部分からトライアドと度数などの関連性の細かい部分を練習するにはこれがいいなってことをいっぱい書きました。

個性的なギタリストになるためにはやっぱり基本的な勉強が大事です。ギタリストが「次の段階」にいくための本ですね。